「牛肉」


   アメリカ産の牛肉輸入再開で、テレビは牛丼店のニュースをしきりに流している。
 そこで、牛肉中心の食生活に対しての警鐘として考えさせられる一文を読んだので紹介しよう。皆さんはどう思うでしょうか。豊かさの追求が人類、しいては地球環境の破壊につながるということの一例でしょう。

 

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 今日でも国産牛は高級品だが、安い輸入牛が出回るようになって、日本の牛肉消費量が年ごとに増えてきている。輸入牛が安いのは、大牧場での大量飼育を効率的におこなうしくみが発達したからだ。

 欧米では、牛肉は食べ物のなかでも重要なタンパク源とされてきた。とくにアメリカでは、19世紀末ごろからハンバーガーが人々の食生活に広がり、牛肉の需要がふえた。平均的なアメリカ人は、1年間に約120キロ(ちなみに日本人は43kg)の牛肉を消費し、世界で生産されるすべての牛肉の23%を消費している。

 最近では、中国や韓国などアジアの国々でも、豊かさの象徴として牛肉の消費量が急増してきている。現在、世界では約13億頭の牛が飼われ、その牧場面積は、世界の陸地の23%におよんでいる。これ以上牛肉の消費がふえ続ければどんな問題が予想されるのだろうか。

 牛は牧草だけでは育たない。放牧地で生育した牛を商品としての肉牛にしあげるために、最終段階で肥育場に集め、トウモロコシなどの穀物を与えてふとらせるのだ。実は、肉牛に与えるタンパク質の約40%は牧草で、残りは穀物なのだ。1頭の牛を1kgふとらせるには、飼料9kgが必要だ。1頭の牛に、1200kgの穀物が与えられ、500kgの肉牛に育てられる。

 今日、世界の穀物総生産量の3分の1は、肉牛とその他の家畜のために使われている。その一方で、世界の総人口の約20%は、慢性的な飢えや栄養不足で苦しんでいる。
 同じ面積の飼料用穀物と食用作物の農地を比べてみると、食用作物の農地では、穀物なら5倍、豆類なら10倍の植物性タンパク質を生産することができるといわれている。

 わたしたちが忘れてならないことは、世界の人口の3人に2人までが、基本的には植物性食物で生きているということだ。世界人口が向こう10年間にほぼ20%増加するといわれるなかで、世界の穀物が家畜にこれまで以上に供給され続ければ、世界の食料危機の原因になるのではないかと心配されているのだ。

 大牧場の開発の進行は、地球の環境保全のうえでも問題となっている。1960年以来、中南米では、熱帯雨林の25%以上が牛の放牧地になった。これは、アメリカを中心に急速に広まったハンバーガーの需要を満たすためだったのだ。南米のアマゾン川流域の熱帯雨林も、ブルドーザーで掘り返され、焼きはらわれて、大規模な放牧地に変えられている。
 北米西部やアフリカなどでは、すでに開発された牧草地の砂漠化の進行が目だっている。これは、過剰放牧によって牧草が食い荒らされ、表土が風雨にさらされて浸食が進んだことが原因とされている。

 大量の牛が排出する糞尿、げっぷやおならにふくまれるメタンガスや牛がはきだす二酸化炭素なども、地球温暖化の原因として指摘されている。大気汚染の原因は、自動車の排気ガスや工場の排煙などだけではなく、地球環境を無視した大規模な牧場開発や肉牛飼育にもあることが明らかになっている。

 牛肉中心の食生活がもたらしている地球規模の食料・環境問題が指摘されるなかで、欧米先進諸国では肉食中心の食生活の是非をめぐって論争がおこっている。  人々のあいだには、食生活の在り方を見直していこうという動きも生まれている。

(『脱牛肉文明への挑戦』より)

2006.9.18